「博士の異常な愛情」
監督:スタンリー・キューブリック
出演:ピーター・セラーズ、ジョージ・C・スコット

 「2001年宇宙の旅」のスタンリー・キューブリック監督作品。そしてキューブリック監督の最初にして最後のコメディ映画。もっともコメディとは言っても、普通のコメディとは違い、思いっきりブラックコメディなので人によっては好き嫌いがあるかもしれない。

 「博士の異常な愛情」というタイトルを見て、はじめ”なんてふざけた映画なんだ、つまらないに決まってる”ときめてかかっていた。だから、当然、この映画を観るまでには長い年月を要した。

 あれは高校1年の冬だった。近くのレンタル屋が100円レンタルセールをやっていた。ところがあいにくその日は遅くにしか帰ってこなかった。仕方なく次の日の夕方、出遅れた・・・と思いながらもレンタル屋へ。そういう時はどこでも同じように新作の商品はすべてレンタル中、そして旧作の面白そうな作品もことごとくレンタル中だった。と、そこに目に入ったのがこの「博士の異常な愛情」だった。この映画だけがポツンとそこにあった。ここでまた”つまらなそうだ・・・”と思っていたら、今でもまだ観ていない映画だったかもしれないが、この時はふと思った。”100円なんだし、借りてみるか”と。

 映画とは出会いである。面白い映画、つまらない映画、いろいろあるが映画に出会うには、なにかきっかけが必要だ。きっかけがあればいい映画にも悪い映画にも出会うことができるのだ。つまらない映画にあたった場合は、運が悪かったとあきらめてもらうほかないが。

 「博士の異常な愛情」を観て感動した。

 まず、俳優人。あれ・・・どこかで見た顔だぞ。ピーター・セラーズだった。「ピンクの豹」という映画でクルーゾー警部を演じて、一躍有名になった彼がなぜかそこでイギリスからの交換兵としてそこにいた。あれ・・・どこかで見た顔だぞ。ジョージ・C・スコットだった。「パットン大戦車軍団」でアカデミー賞を受賞した彼がいた。いい映画には素材も必要だ。

 冷戦の続く中、ソ連の科学者が”皆殺し兵器”というものを開発した。核がもしソ連に打ち込まれれば、世界中の人間が死んでしまうという兵器を開発したのだ。そんな時、アメリカのある戦略空軍基地の司令官が発狂、全世界を飛ぶB52戦略爆撃機に、核攻撃命令を伝達する。米ソ両国の首脳はホットラインで協議し、B52爆撃機をなんとか止めようとする。しかし、たった1機だけ、通信系統の故障から呼び戻せない機があった。そしてそのB52は核を載せたまま、ソ連へと飛び続けるのだった。

 米ソのやりとりがまた面白い。大統領(これがまたピーター・セラーズ)がソ連にホットラインで電話をかけると、ソ連の書記長は酒を飲んで酔っているという設定、大統領は繰り返す、

 「酔ってるのか?こんな大事な時に。申し訳ないがうちの爆撃機がそちらに核爆弾を積んで向かっていてね・・・、どうしよう?」

 死の灰に覆われる恐怖、なのに会話は笑いを誘う。そしてB52の中では、「我々がやらねば祖国が負けるんだ」と愛国心に燃える機長はじめ乗組員が真剣にソ連に向かって飛んでいる。

 真面目な題材をむちゃくちゃブラックにしてしまうあたり、キューブリックを感じる。

 空軍基地の中でまたピーター・セラーズが銃を持った兵士に言う。

 「電話をかけるのにコインが必要なんだ、お国のためだ、撃て!」

 とその先にあるのはコーラの自動販売機、しかも公衆電話で大統領に報告する。ハチャメチャとはよく言ったもので、細部までよくできたブラックギャグ。キューブリックは作品ごとにテーマが異なっているので、またコメディを撮ることはないとは思うが、もう一度撮ったらまた笑わせてくれるんだろうな。

 ちなみに戦争モノはこの他に「フルメタルジャケット」という映画がある。この映画、ラストシーンでアメリカ兵が砲弾の降りそそぐ中、ミッキーマウスの歌を歌いながら行進していく。これもまたブラックなギャグなんだろうか。主人公がジョーカーというあたりから確かにふざけてはいるけれども。

 とにかく、冷戦が終わった今、冷戦を知る大事な材料として、この映画を観ることをここを読んでくれている人だけでなく、多くの人に対して勧めたい。ま、そんなこと抜きにしても面白いので、ぜひ見てゲラゲラ笑ってください。

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